
「アジフライの聖地」はこうして生まれた
市長が語る、松浦活性化ビジョン
Text: Wataru Sato / Photo: Shintaro Yamanaka
今年(2019年)4月27日、長崎県松浦市は「アジフライの聖地」宣言をし、松浦がアジの名産地であること、中でもアジフライがとびきり美味しいことを全国にアピールします。松浦の名前を全国に轟かせること、それは新任した市長のミッションでもあります。STORY 01では、友田吉泰松浦市長にインタビュー。プロジェクトの経緯と、その想いを聞きました。

「アジフライの概念が変わった」
現在の松浦市長は、2018年1月に初当選を果たした友田吉泰(ともだよしやす)さん。市議会議員を12年、県議会議員を7年務め、長く松浦に貢献してきた人物です。彼が選挙時から政策として掲げていた「ともだビジョン」は、人口減少に悩む松浦市をこれからどう変えていくかの宣言。計46のさまざまな提案がなされていますが、その中でも特に目立っていたのが「アジフライの聖地をめざす」とさりげなく書かれた一文でした。
事実、松浦は全国でも有数の漁場と言われる玄界灘の入り口に位置し、松浦魚市場でのアジやサバの取扱量も全国トップクラス。でも市長さん、なぜゆえアジフライだったんでしょうか?
「県議会議員時代に全国を回って、感じたんです。松浦で食べるアジフライは、明らかに他と違うって。身がふっくらしていて、臭みもない。当たり前すぎて気づいていなかった地元の豊かさに、目を見開かされました」
友田市長は、その後も松浦を訪れた国会議員や、知人友人にアジフライを食べてもらうよう計らいます。すると、数名の口から出てきた言葉が、「アジフライの概念が変わった」。これを聞いた市長は、きっと全国で話題になるはずと確信したと言います。

地元に愛着を持つきっかけに
お刺身は、日本の沿岸部の町であればどこもおいしい。そこに付加価値を加えてフライに的を絞ったのが、友田市長のアイデア。狙い通り、マスコミはこのキャッチーな一文に大きく反応しました。
「ともだビジョンには、真面目な提言もたくさんあるんですよ。でも実際は、アジフライに質問が集中してしまって(笑) 自分でも予想していなかった大きな波紋を呼びました」
松浦市の課題は、資源が豊かでポテンシャルが高いのに、名前を知られていないことだと感じていた友田市長。アジフライによって注目を集めることで、市民も地元・松浦に誇りを持てるようになる。アジフライを目当てに訪れた観光客と交流し、地域が元気になる。このような狙いが具体的なかたちとして実を結んだのが、松浦高校の高校生による提案でした。

「今までは、『松浦ってどんな町?』と聞かれても、なかなか適切な答えが見つかりませんでした。でも今は、『アジフライがおいしい町!』と答えられる。将来、生徒たちが成人して都会に出て行ったとしても、地元の町を、誇りを持って紹介できる。そんな風に、松浦に関心を持ってもらうことが、長い目で見た地域の活性につながると考えています」(友田市長)
アイデアがやる気を引き出した
このプロジェクトが、単なる地域おこしの仕掛けに終わらず、その後の大きな展開に結びついた理由。それは、「おいしい」という万人に共通の魅力に地元の魅力を乗せて、わかりやすく表現したこと。それにより、「この楽しいブームに加わろう」という機運が生まれたことではないでしょうか。
その証拠に、市役所内もこのプロジェクトが始まって以降、変化がありました。マップ作成やイベント出店など、さまざまな企画に対して担当課を越えて意見を出し合い、打ち合わせも頻繁に行われるように。雰囲気が以前より明るくなり、コミュニケーションが図られるようになったと言います。
「職員の皆さんの自発的な協力があってこそ、今の展開があります。私はむしろ、最初に宣言をしただけ。松浦のいいところをもっと知ってほしいという皆さんの強い思いに、私も改めて心を動かされましたね」
次回STORY 02では、松浦=アジフライを定着させるべく奮闘した、市の職員のストーリーをお伝えします。

YOSHIYASU TOMODA
友田 吉泰さん
1964年、佐賀県生まれ。99年に松浦市議会議員に初当選し、12年務めた後、2011年より県議会議員。2018年、任期満了の前松浦市長に代わって、松浦市長に就任。市民にわかりやすい言葉で語りかけ、決断も迅速。市の職員からの信頼も厚い。揚げ物好きで、アジフライは小さい頃からの好物。「日本各地でアジフライを食べてきましたが、松浦がいちばんです!」