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#福岡県朝倉市 #酒蔵 #インバウンド

 

福岡初モルトウイスキー蒸溜所から世界に発信、
朝倉の水のストーリー。

目次

水のまち朝倉にウイスキー蒸溜所が誕生。

全国的に見ると焼酎の産地というイメージが濃い九州ですが、福岡県では実に多種多様なお酒がつくられています。日本酒や焼酎はもちろん、地元産の食材を使ったリキュール、クラフトビール、ワイン…、そして2021年より新たに、モルトウイスキーが加わりました。 江戸時代に創業し200年以上にわたり酒づくりを続けてきた株式会社篠崎が、朝倉市内に「新道(しんどう)蒸溜所」を立ち上げたのです。 朝倉市といえば、九州最大の一級河川、筑後川の下流に位置し、温泉や湧き水も豊富な「水のまち」。酒づくりとの相性も良い土地です。

新道蒸溜所のウイスキー熟成用の巨大倉庫2棟。敷地内にウイスキーとワインの製造施設も。
新道蒸溜所のウイスキー熟成用の巨大倉庫2棟。敷地内にウイスキーとワインの製造施設も。

ジャパニーズウイスキーが世界的にブームとなって久しいですが、新道蒸溜所は福岡県第1号のクラフトウイスキー蒸溜所。篠崎本社からは400mほど南、朝倉インターチェンジを降りてすぐの5500坪もの広大な敷地に酒造施設と熟成樽倉庫2棟が立ち、ワイナリーも併設されています。

スコットランドから輸入した麦芽(モルト)を粉砕し、糖化→発酵→蒸留させてスピリッツをつくる。
スコットランドから輸入した麦芽(モルト)を粉砕し、糖化→発酵→蒸留させてスピリッツをつくる。

ウイスキーには木樽で熟成させる時間が必要となるため、熟成から3年を経た今年(2025年)6月、ついに篠崎として初めてのシングルモルトウイスキー1作目をリリース。日本洋酒酒造組合が定める基準をクリアした正真正銘のジャパニーズウイスキーです。
同年2月に開催されたイギリスのウイスキーコンテストでは、ニューボーン(熟成3年未満)を出品し、部門最高賞を受賞。ウイスキー発売前から注目を集めることとなりました。

新道蒸溜所のシングルモルトウイスキー第1弾「SHINDO EXPERIMENTAL 01」は1万本生産。<br>
ウイスキーの味わいや商品詳細はこちら
新道蒸溜所のシングルモルトウイスキー第1弾「SHINDO EXPERIMENTAL 01」は1万本生産。
ウイスキーの味わいや商品詳細はこちら

蒸溜所に関わっているのは同社の8代目となる篠崎倫明社長を含めて8人。発酵・蒸留といった製造工程、樽の管理、そして最後に味を決めるブレンダーと役割は分担しているものの、指南役として外部から入ってもらった師匠のもと、全員で日夜研究と試行錯誤を重ねながらつくり上げていったといいます。
また、もともと日本酒だけだった酒蔵から、甘酒や焼酎、さらに樽による焼酎の長期熟成といった分野まで事業の枠を広げてくれていたのは、研究熱心な先代社長でした。
「先代である父もずっと前から自社でウイスキーをつくってみたいという思いは抱いていたので、この蒸溜所は、当社の長年の夢が形になったとも言えます」(篠崎社長)

2023年に代表取締役社長に就任した篠崎倫明氏。
2023年に代表取締役社長に就任した篠崎倫明氏。

篠崎社長の記憶では、30年ほど前までは8軒ほどの造り酒屋が軒を並べていたという朝倉。しかし時代の流れとともに減少。さらに2017年、九州北部豪雨に見舞われます。
「本社は川に近い場所にあって浸水しました。ただ近所の被災したお宅も高齢の方が多いので、泥のかき出しなどを手伝っていたんです。すると多くのお宅に当社の酒瓶が実にたくさんあって、それを目にするとなんとも言えない気持ちになりました。また被災して酒造りができなくなったうちの酒の復活を望んでくれる声もたくさんいただいて。地元のためになることをしたいというか、新しく何かをやるならば、この土地でという思いになり、本社からほど近い新道という場所に蒸溜所をつくったわけです」(篠崎社長)

九州北部豪雨で被災したものの、地元の方の応援も受けて見事に復活した本社の酒蔵。
九州北部豪雨で被災したものの、地元の方の応援も受けて見事に復活した本社の酒蔵。

世界に広がる朝倉発ウイスキーの可能性。

先代の頃から篠崎としてつくりたかったウイスキーを、謙虚に研鑽を重ねて世に送り出すことができた新道蒸溜所。同社の理念である「独創性の追求」という言葉の通り、ウイスキーの味も他では味わえないものになっています。熟成前のニューメイクという段階から、ラクトンという香気成分をしっかりと効かせることで、独特の重たく甘い香りを楽しめる、そんな世界中のウイスキーの中でも珍しい味わいが特徴です。

新道蒸溜所に併設されたショップ「SHINDO LAB」。樽から直接ボトルに詰めるハンドフィルでのウイスキー購入もできる。
新道蒸溜所に併設されたショップ「SHINDO LAB」。
樽から直接ボトルに詰めるハンドフィルでのウイスキー購入もできる。

また、今回の大掛かりな新規事業では、メインバンクである福岡銀行甘木支店を最初の相談窓口としつつ、ホームページのリニューアルやコロナ禍の補助金申請、さらに県内初のウイスキー蒸溜所見学や試飲をコンテンツ化して観光庁に補助金を申請するなど、5年以上にわたりFFGのさまざまな部署やグループ会社が伴走しました。
「福岡銀行さんは同じチームとして、こちら側の意図を汲み取って提案してくれるので本当に助かります。資金繰りのことから、モニターツアーやテイスティングブースの新設、お土産開発に至るまで、事業展開の心強いサポーターです」と篠崎社長。

2025年10月23日発売の限定商品「SHINDO EXPERIMENTAL FOR CORES」2種。<br>ファンや専門店からの注文で発売前に完売してしまった。
2025年10月23日発売の限定商品「SHINDO EXPERIMENTAL FOR CORES」2種。
ファンや専門店からの注文で発売前に完売してしまった。

朝倉市で生まれた、福岡県初のジャパニーズウイスキーは、コンペティションでの受賞や、モニターツアーや展示会等で試飲した方々の口コミによって、着実にファンを増やしています。今回の取材当日も、新道蒸溜所のウイスキーを樽で購入したいという台湾からのお客様が来られていました。
「韓国の有名なウイスキーインフルエンサーの動画を見て個人で買いに来られたり、この蒸溜所は行っておいた方がいいと4〜5人からおすすめされたから買いたいと外国人から問い合わせがあったり。既に海外の方に購入いただいた樽は結構ありますね」(篠崎社長)。

貯蔵庫にずらりと並ぶ熟成中のウイスキー樽。
貯蔵庫にずらりと並ぶ熟成中のウイスキー樽。

お酒の中でも世界共通言語と言われるウイスキーをきっかけに、国内外から注目を集め始めている朝倉市。この勢いやムーブメントを、さらに地域や業界の発展につなげることができればと篠崎社長自身、大きな期待を抱きながら次のステージを目指しています。

 

水、酒、世界記録がキーワードの朝倉エリア。

2026年3月に合併20周年を迎える朝倉市は福岡市に次ぐ県内4位の広い面積を持ちますが、あさくら観光協会はここに、朝倉郡筑前町・東峰村まで含めたさらに広大な広域圏として観光誘客に取り組んでいます。
「市政20周年を記念して、11月に朝倉の人はもちろん、観光客も巻き込んだ大イベントを実施するんです」と話すのは、観光協会の里川径一事務局長。そのイベントとは、“乾杯リレー”の人数世界一を目指す、参加型イベントなのだそう。(イベントの詳細はこちら

あさくら観光協会の里川事務局長。
あさくら観光協会の里川事務局長。

正式には、ギネス世界記録™︎「最も長い乾杯リレー」。当日会場に集まった人々が次々に「乾杯!」と言って、実際に飲み物が入ったグラスをカッチン!とぶつけ合っていくというもので、世界新記録となる2000人を目指します。子どもも大人も参加するので、飲むのはビールかソフトドリンクですが、イベント発案者でもある里川さんは、「新道蒸溜所が朝倉市にできたから思いついた企画でもあります!」と言います。

筑後川河畔に旅館や温泉施設などが集まっている原鶴温泉。
筑後川河畔に旅館や温泉施設などが集まっている原鶴温泉。

意外と知られていませんが、朝倉エリアの、昔も今も変わらない魅力は豊かな水の恵みです。古くから酒蔵があったりビール工場ができたり、筑後川水系のダムが市内に3基も存在したり、原鶴温泉をはじめ、温泉や湧き水が豊富だったり。篠崎の日本酒やウイスキーも、朝倉の良質な水があったからこそ生まれました。

11月22日(土)に開催される「最も長い乾杯リレー」チャレンジのチラシ。
11月22日(土)に開催される「最も長い乾杯リレー」チャレンジのチラシ。

「実は朝倉のキリンビール福岡工場はアジア一広い敷地面積を誇るビール工場。そして県内一の湧出量を誇る原鶴温泉があって、そして温泉に泊まれば湯上がり乾杯!さらに、福岡初のモルトウイスキー蒸溜所まで誕生しておめでたいじゃないですか。篠崎さんの挑戦があったからこそ、朝倉で乾杯世界一を目指す企画を推し進めることができたんです」(里川さん)

乾杯リレーに使われる、オリジナルグラス。参加者はもれなく1個もらえる。
乾杯リレーに使われる、オリジナルグラス。参加者はもれなく1個もらえる。

当日会場内では、篠崎をはじめ、朝倉市にある酒造会社のいろんな酒を味見できるテイスティングエリアも設けられる予定とのこと。「こういうことができるのも朝倉ならではだと思います」と里川さんは胸を張ります。
こんな、とても明るくエネルギッシュな里川さんですが、実は8年前の豪雨で被災し、2年間仮設住宅で暮らした経験を持つそうです。

あさくら観光協会事務所は甘木鉄道甘木駅にあり、観光案内所を兼ねている。
あさくら観光協会事務所は甘木鉄道甘木駅にあり、観光案内所を兼ねている。

「豪雨被災後も大雨被害が結構続いて、もう嫌だ、やってられないと思っていたんですが、けれども大きな目で見たら、こんな水害が起きるほど豊かな水に恵まれたところはないのでは?と思い始めて。200年ここで商売している篠崎さんはもちろん、キリンビールさんはじめ皆様が口々に朝倉の水がいいと言われます。九州一の大河筑後川も流れ、世界に誇る三連水車、山田堰があるのも水の恵が豊かだから。最近では逆転の発想で、水の恵みが豊かという強みをアピールしているように思います。」


今回の乾杯世界一を達成できたら、篠崎やその他のお酒メーカー、飲食店を巻き込んで、「乾杯のまち朝倉」として売り出すことを狙っているのだそう。これから新道蒸溜所を訪れる方々には、まずあさくら観光協会にも立ち寄っていただき、広大な「乾杯のまち」の多彩な見どころも一緒に楽しんでほしいと思います。

 

銀行として、アドバイザーとして、地域の応援団の一員として。

篠崎の新事業に、お金の面だけでなく、幅広いサポートについても最初の窓口となったのが福岡銀行甘木支店。行員が定期的に訪問する中で、ホームページを変えたいと思っている、という相談が糸口となりました。担当者はすぐに、webサイト制作・運営に強いグループ会社のiBankマーケティングにつなぎ、そこからさらに、地域共創部や同じくグループ会社のTAPも巻き込んで、観光庁の「地域観光新発見事業」活用や、ツアー客の受入体制整備などフルサポート連携が進んだのです。


「銀行というと、こちらもお客様側も融資などの話だけ、という認識にとらわれがち。例えばホームページとかマーケティングとか、そういう分野はどちらかというと苦手に感じてしまいます。しかしiBankや地域共創部など、銀行内や身近にそれらの専門部隊があるというのは、大きな強みだと実感しました」と、多田支店長は振り返ります。

「実は甘木支店に来る前から、大分自動車道から見える新道蒸溜所の建物が気になっていたんです」と話す福岡銀行甘木支店の多田支店長。
「実は甘木支店に来る前から、大分自動車道から見える新道蒸溜所の建物が気になっていたんです」と話す福岡銀行甘木支店の多田支店長。

朝倉という地で昔から酒造業を営んでいた篠崎の新たな一歩を応援したいという声は、銀行にも届くといいます。
「お父様の時代から地域に貢献したり、現社長も先日行われた福岡県のお酒イベントの実行委員長をされたり、一生懸命な姿を見て応援したいなとおっしゃる地元の方は非常に多い。朝倉に今必要なのは、観光など人を呼ぶ力だと思うので、そういうところにも一役買っていただけるのでは、と私たちも期待しています」(多田支店長)。

現在篠崎を担当する柴田さん(左)やフレッシュな1年目行員と共に甘木支店前で。
現在篠崎を担当する柴田さん(左)やフレッシュな1年目行員と共に甘木支店前で。

今回の事例のように、福岡銀行をはじめFFGのグループ会社は常に一体となって、地域でビジネスや産業活性化に取り組む皆さまと伴走しながらお手伝いをさせていただいています。 課題も必要となる支援も事業者やシーンに応じてそれぞれ異なりますが、観光誘客や販路拡大、ビジネスマッチングなど、あらゆる打ち手を携えながら地域活性化に取り組んでまいります。

|今回の取材先

株式会社篠崎
200年以上前から朝倉で酒造業を営み、1980年より「国菊あまざけ」や焼酎の販売も開始。地域に根ざしながら幅広いジャンルと価格帯の製品を展開している。2021年より朝倉の新道という地でウイスキーとワイナリー事業に着手。
 

あさくら観光協会
筑後川河畔の名湯で、福岡県内随一の湧出量を誇る原鶴温泉や、筑前の小京都と呼ばれる旧城下町・秋月をはじめ、フルーツ狩りや地元グルメ、イベントなど、朝倉市内および、朝倉郡の筑前町と東峰村の観光情報を発信。