
#福岡県宗像市 #ご当地ラーメン #甘夏香る塩ラーメン
地元企業と一風堂がコラボ。
宗像特産の甘夏の苦味を生かした塩ラーメン開発ストーリー。
全国各地で新しいご当地ラーメンを開発している一風堂が目をつけた、宗像市の意外な特産品。
福岡を代表するグルメといえばとんこつラーメン。その人気店として知られ、今や国内外に約300店舗を展開する「一風堂」の運営会社、力の源ホールディングスは、社会貢献の一環として食育や食を通じた地域活性にも力を入れており、2025年、福岡県宗像市のとある特産品を取り入れたラーメンを開発しました。
その食材とは、玄界灘に浮かぶ福岡県宗像市の離島、大島で昔から栽培されてきた「甘夏」。爽やかな酸味と独特の苦味が特徴の夏みかんの一種です。今でも大島をはじめ宗像市内のあちこちで甘夏の果樹を目にしますが、デコポンなど糖度の高い柑橘類に脚光が集まる昨今、市場での人気は低調気味。甘夏農家を続ける人も少なくなっています。
そんな状況を知って、宗像産甘夏の市場価値を上げたいと、独自で密かに取り組みを始めていたのが、宗像市で食品開発製造業を営む鷹羽屋(たかはねや)代表の濵田さんと、事業パートナーの久保さん。地元の人たちが誇りに思い大切に育てている甘夏の魅力をアピールできるような新商品を作れないものかと、2024年に新設したばかりの食品加工場内で試行錯誤を続けていました。
新しい甘夏メニューを考えていた矢先、「ラーメンに興味がありますか?」と突然声をかけられ…。
キッチンカーを持つ鷹羽屋は食品開発のかたわら、不定期で移動販売も行っています。甘夏のことが頭の片隅にあった2024年12月も、大勢の買い物客で賑わう「道の駅むなかた」のイベントに出店して、オリジナル商品の「玄海ホルモン」を販売していました。そんな濵田さんのもとに、顔見知りの宗像市職員がやってきました。「突然ですが、鷹羽屋さんはラーメンに興味はありますか?」
実は、鷹羽屋が甘夏を使った新メニューを考えていた頃、力の源カンパニーではラーメンを通じた宗像地域の課題解決というミッションに向けて動き始めていました。宗像市役所の協力を得つつも、なかなか良い素材や協力会社に出会えません。そこでプロジェクトメンバーとして関わっていた福岡銀行地域共創部の溝上さんは、「道の駅むなかた」などから地元の食品関連事業者の情報を集めます。そんな中浮上したのが、玄海ホルモンというご当地グルメを開発した実績を持ち、「食で地域を創造する」を理念に掲げる鷹羽屋の名前でした。
「我々が鷹羽屋さんのことをよく理解できていなかったため、市の産業振興部の方に感触を探っていただいたのです」(溝上さん)。そんなこととは知らず、突如、有名店とのコラボ企画の話を聞かされ、ただただ驚いた濵田さんでしたが、思わず「とんこつ以外のラーメンも作られるのですか?」と尋ねてみたそうです。「その頃ちょうど、甘夏の商品化にはお菓子系より食品が合いそうだと思い始めていたので、好奇心で聞いてみました」(濵田さん)。
全員が楽しんで向き合った“宗像ラーメンプロジェクト”の結果、想像を超えた絶品塩ラーメンが完成!
市の職員から詳しい話を聞き、一風堂がとんこつ以外のラーメンも開発できると知って、企画への参加を快諾した濵田さん。「あまりにもタイムリーな話で嬉しくて、翌日には近くの一風堂までラーメンを食べに行きました(笑)」。扱う宗像食材も、鷹羽屋が着目していた大島特産の甘夏に確定。こうして、ラーメンのプロと、地元食材への愛情と知識をもつ鷹羽屋とがタッグを組み「甘夏を使ったラーメン」の開発がスタートしたのです。
開発を担当したのは、力の源カンパニー商品開発グループでマネージャーを務める堺さん。「甘夏を使った開発は初体験。難しいけれど、もともと柑橘とラーメンの相性は悪くないので、甘夏の苦味をあえて生かすスープを追求しました」と振り返ります。
主役は甘夏ですが、他にも、可能な限り宗像の食材を使用。塩ラーメンのスープは、宗像大島の塩や地元「マルヨシ醤油」の薄口醤油、宗像産の飼料で育てた「むなかた鶏」のガラで仕込みました。さらに、トッピングのつみれやチャーシューもむなかた鶏を使った自家製。つみれの中には甘夏ピールを練り込み、チャーシューにも甘夏の風味を染み込ませています。
鷹羽屋をはじめ、関係者が試食する第1回目の試作品発表では2種類を提示。透明スープの塩ラーメンの他に、とんこつに近い白濁の鶏白湯スープのラーメンも提案しました。「鶏白湯も力強くて美味しいと好評でしたが、甘夏の良さをより感じられるのは澄んだ清湯(透き通ったスープ)ということで、こちらでいこうと決まりました」(堺さん)。麺は、スープがよく絡み、食感的にも塩ラーメンに合うちぢれ麺。最後にドライ甘夏を程よく散らして「甘夏香る塩ラーメン」の完成です。
最初のお披露目は9月、東京の「一風堂 浜松町スタンド」。甘夏香る塩ラーメンをメインに、宗像産品を使った全10品のコース料理を提供するイベントです。1人5,000円の完全予約制にも関わらず、「あの一風堂が塩ラーメン!しかも宗像の甘夏入り!?」とファンの間でも大きな話題に。鷹羽屋や宗像市の職員もホスト役としてお客をもてなし、宗像の観光物産をPRしました。そして参加者に感想を聞いたところ、塩ラーメンが大好評。自ら予約して参加していた有名なラーメン評論家からも100点のお墨付きをいただきました。
せっかく作ったラーメンを宗像みやげに!クラウドファンディングへの挑戦から始まる第2フェーズが始動。
力の源ホールディングスと福岡銀行が協業した、宗像の地域活性を目的としたラーメンの開発事業自体は、9月の東京イベントと10月の地元イベントでのお披露目がゴールでした。10月5日の日曜日、「道の駅むなかた」にキッチンカーを出店し300杯限定、1食1,000円で販売。テレビ局の取材も入り、予想以上の反響でたくさんの「美味しい!」を聞くことができました。
本来であれば、一風堂と地域のコラボメニューの完成お披露目で終わるのですが、今回はなんと次の展開がスタート。せっかく念願の甘夏を使ったこんなに素晴らしいラーメンができたのだから、1回きりではもったいない!鷹羽屋で形にして継続させようと濵田社長が腹を決めたのです。
「甘夏香る塩ラーメンをもっと多くの方に味わってもらえるよう、お土産として持ち帰れる冷凍商品化を進めています」と濵田社長自ら、生みの親である堺さんに指導を受けながら味を再現。そういうことであればと、溝上さんはPRを兼ねた資金集めとしてクラウドファンディングを提案し、2026年2月ごろの開始に向けて動き始めました。
「溝上さんはじめ皆さんからの励ましやフォローがあったからここまでこれたし、独りよがりにならず楽しく取り組めた。本当に良いご縁をいただいたなと思っています。商品化して売るのも大事な目的ではあるけれど、我々みたいな地方の食品加工業者を面白いと思ってもらい、取り組みに興味を持ってもらえたらいいですね」と、久保さんも、次なる挑戦に意欲を燃やします。
「食のまち宗像」を推進する宗像市も、甘夏香る塩ラーメンの展開に期待。
鷹羽屋に声をかけ、今回の甘夏ラーメン開発の経緯をずっと見守ってきた宗像市の産業振興部も、新グルメの今後に注目しています。コラボ食材が甘夏に決まったタイミングで担当に着いた商工観光係長の花田さんは、市が掲げる「食のまち宗像」の補助金担当として地元特産品の開発を支援。初年度の2024年だけで6商品が新たに誕生し、鷹羽屋も甘夏ラーメンの商品開発に向けこの補助金を申請しました。
「今回、鷹羽屋、福岡銀行、一風堂、そしてむなかた鶏を卸すトリゼンフーズといった皆さんとワンチームで、すごくいい経験をさせていただきました。素晴らしい一品ができたことも、皆さんの良いところをすべて持ち寄った結果だと思います」(花田さん)。
宗像市としては、甘夏香る塩ラーメンの商品化によって、世界遺産を見に訪れる観光客が気軽に購入できる宗像みやげが1つ増えると同時に、ふるさと納税の返礼品の新たなラインナップにできればと期待しています。
地域と密接なつながりを持ち続けたい。
今回の事例では、福岡銀行の地域共創部が力の源ホールディングスとの地方創生事業に関わったことが発端となり、鷹羽屋と地元の宗像支店を繋ぐ形になりましたが、支店長の吉田さん自身、着任した1年前から市役所を通じた地域とのリレーションを大事にしてきました。「市役所に通っていると、いろんな相談を持ちかけられるようになります。その結果、地元小学生を銀行に招いて体験型授業をしたり、創業を希望する人向けにセミナーを実施したり、地元でやっていることに積極的に関われるようになりました」。
鷹羽屋のクラウドファンディングに関しても、どんなリターン品が魅力的だと思うか、行員の皆さんにも協力してもらい意見交換の場を持つ予定とのこと。「行員にも良い経験になるし、少しでも関わっておくと、おのずと関心が高まって事業全体の行方を見守るきっかけになります」と、副支店長の竹村さんも期待を寄せます。
「異動を避けられない職務でもあるため、2〜3年の在任期間で結果が出せることは少ないかもしれないけれど、市や地域との結びつきを行内で絶えず継承していくことで、いつかどこかで花開いてくれれば」と、長期的な視野での地域連携が重要だと話す吉田さん。今後、地域共創部と地元営業店との協働が円滑に進むことで、さらに効果的に、さまざまな形の支援につながっていくのかもしれません。まずは鷹羽屋の挑戦を見守りつつ、「食のまち宗像」を共に盛り上げていきます。