STORY 06 | 地域とヒト
学生が地域課題の解決策を提案。地方創生の産学官金連携ストーリー。
社会人基礎力を身に付け、課題解決力を養う提携講座。
福岡市の西南学院大学では、学生たちが社会で必要とされるさまざまなスキルを学ぶ、企業との提携講座を実施しています。ふくおかフィナンシャルグループ(以下、FFG)も経済学部と提携して同講座を実施。2020年度は初の試みとして自治体の方にも協力いただき、実際の地域課題を事例として挙げてもらいました。
「学生たちには現場の人の話を聞いて、金融業界のリアルな感覚や実務を知ってほしい。さらに、ただ講義を聞くだけでなく、自分たちで考えて発表するという実践を通して、社会人基礎力も身に付くことを期待しています」と経済学部長の小出教授。自身のゼミでも数年前から、チームをつくり地域活動を行いながら地域課題の解決策を提案・実施する授業を行い、昨年からは地元・西新を研究材料とした「まちづくり・ひとづくり実習」も始めるなど、地域と連携した学びに着目しています。
また今回は、糸島市ブランド・学研都市推進課にも協力いただき、「若者の転出が顕著」「移住・定住が中心部に偏りがち」「空き家の流通が進まない」といった実情を自治体の課題として学生に提示。
その解決策を考えるというケーススタディを行いました。同課の重冨課長は、「糸島の課題を解決する新鮮なアイデアへの期待感はもちろん、若い人たちの目に糸島市がどう写っているのかを知る良い機会」と、取り組みに期待を寄せます。
金融を学び、地域の課題について考える。
金融業界への興味を深めると共にキャリア選択への意識を高めることを目的に、週に1度のペースで全5回にわたり行われた提携講座。福岡銀行の各部門や関連会社が講師を務め、第1回は事業性評価に基づく融資審査業務の紹介と資産形成の必要性と考え方について、第2回はFFGの地方創生の取り組みについて、第3回はDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略とスタートアップ企業への投資について講義を行いました。
第4回と最終の第5回は、学生の皆さんによるプレゼンテーションです。糸島市から提示された課題に対し、5人1組のグループワークでニュービジネスを考えるケーススタディに取り組みました。
糸島市から同市の移住・定住施策と現状課題の説明を受け、メンバー間でディスカッションを行い、資料にまとめて発表します。発表では、「空き家を活用したサテライトオフィス」や「子育てしやすい街の実現」などさまざまなアイデアが提示される中、空き家を借り上げてグランピング施設として整備し、移住を検討中の人が泊まって糸島暮らしを体感できる「糸島移住トライアル」というプランを提案したDチームが最優秀賞を受賞しました。
空き家の現地視察と糸島市への最終提案。
後日チームのメンバーは、自分たちのプランが本当にビジネスとして実現可能なのか、糸島市役所へ提案書を手渡す前にいくつか実際の空き家や活用事例を視察しました。
まず訪れたのは、合同会社よかごつが運営する起業家シェアハウス「熱風寮 前原西」です。もともと空き家だった築130年の民家を改装してシェアハウスとし、現在は九州大学の学生さんや社会人など8人が暮らしています。
よかごつ代表の大堂さんは、東京で10年間会社勤めをした後、以前から頭の片隅にあった「学生寮を開きたい」という夢を叶えるべく大学時代を過ごした福岡で起業。
母校の九州大学がある糸島市で、空き家を使ったシェアハウスを展開しています。事業は年々拡大、この熱風寮で6棟目になるそうです。
せっかくなので、自分たちの提案資料を大堂さんにも見てもらいました。「面白い提案ですね。あとは集客のためPRも必要。うちでは住人の方にSNSなどに日常生活を上げてもらうことで、シェアハウスの魅力を発信しています」とアドバイス。若い人にはツイッターが有効という言葉に学生さんたちも大きくうなずいていました。
熱風寮の次に向かったのは、現在借り手を募集中という実際の空き家。のどかな住宅地にあるどっしりとした1922年築の和風建築で、所有者の方が手入れされているとあって保存状態も良好です。
「土間を生かして、昔の生活体験ができるのも面白そう」「リフォームでもこの雰囲気を残して使ってみたい」と、学生さんたちも実際の物件を見ることでプランが具体的にイメージが湧いてきたようです。
最後に糸島市役所へ。視察した内容を踏まえて提案をブラッシュアップし、ブランド・学研都市推進課の重冨課長をはじめとした3人の職員の方々にプレゼンテーションしました。大堂さんに助言いただいたPR手法のことや、実際に物件を見たことでイメージできたリフォームプランやコスト面も盛り込み、大学での提携講座からさらに具体化した提案になりました。
自分たちの口から資料の説明と糸島についての感想を述べると、職員の方々からは「糸島の魅力や課題をしっかり盛り込んでいただけてありがたい」「提携講座で発表した際もデータに基づいた内容だったが、視察結果を反映したことでより実現性が高まったように感じる」といった感想が。日頃から移住促進などの業務に携わる方々の言葉を聞いて、学生の皆さんもホッと安心することができたようです。
実践的な学びの場を通して地域の課題解決に
今回の提携講座を通じて、講座を企画した西南学院大学社会連携課の松﨑尚志課長は一定の手応えを感じることができたと言います。
「提携講座は、産業界との接点を学生たちに持たせてあげたいという思いで始めた企画ですが、今回福岡銀行さんが糸島市さんと繋いでくださり、さらにブラッシュアップすることができました。課題解決プランのプレゼンテーションを通して学生さんたちのポテンシャルも感じられ、このような実践的な講座を今後も続けていきたいと思います」(松﨑課長)
2021年度の提携講座も、すでに準備が整いつつあるという西南学院大学。
学生が各業界のタイムリーな状況を掴んだり、実社会で生かされるスキルを身に付けたりする上で、企業や自治体の協力は欠かせないとする一方、このような企画の継続開催が、地域人材育成による地方創生にも繋がっていきます。
FFGとしても、産学官金連携による具体的な取り組みを今後さらに推進してまいります。