STORY 09 | 地域とヒト
100周年を迎えた宇美町ならではの新しい魅力を生み
出す若い力のストーリー。
町制100周年を迎えた宇美町、次の100年へ新たな思いで歩み出す。
福岡県糟屋郡宇美町が誕生したのは、1920年(大正9年)。昨年10月に、町制施行から100年目を迎えました。近年では福岡市のベッドタウンとして子育て世代にも注目される宇美町のあゆみは、1500年近い歴史を持つ宇美八幡宮と共にあります。神功皇后が応神天皇を出産したと伝わる宇美八幡宮は全国的にも有名な安産の神様で、古くから大勢の人々で賑わっていたとのこと。そして現在も楠の大木が見守る境内には、子宝や育児など子どもに関連した祈願に訪れる参拝客の足が絶えません。
宇美町役場まちづくり課の田原久司係長によると、「宇美町は宇美八幡宮の他にも、西暦665年に築城された日本最古の古代山城『国指定特別史跡 大野城跡』や『国指定史跡 光正寺古墳』など、歴史的価値のある史跡が多い町」とのこと。そんな宇美町の100周年という節目だった昨年はさまざまな企画の準備が行われました。「最終的には感染対策のため規模縮小を余儀なくされましたが、子どもから大人まで町の方々の協力で、思い出に残る100周年が迎えられました」と振り返り、コロナが収束した時には、町内外問わずみんなで町を賑やかにできたらと期待を寄せます。また田原さん自身も、町内で経済が回る仕組み作りとして、地元業者や商工会と共働した取り組みを進めたり、JR宇美駅と宇美八幡宮をつなぐような動線を作ったり、これからの100年がさらに活気付くまちづくりをしたいと話してくれました。
地域の応援団!商工会青年部が描く宇美の未来図は?
町の人たちが楽しみにしているイベントの実行部隊として活躍するのが、宇美町商工会の青年部の方々。1946年(昭和21年)創業のマルト醤油醸造元の3代目、山元大輔さんは、3年前から青年部長を務めています。
通常は子どもたちの見守りや巡回パトロールなど、地域ボランティアとして活動しながら、年に数回大規模イベントを実施。ところが昨年以降はコロナ禍により、人が集まる行事は軒並み中止に。そんな中、山元さんたち青年部は100周年記念に何ができるかを考え、宇美町らしい壁画を残そうということになりました。町内の小学生からデザイン案を募集し、青年部が壁にペインティング。宇美町役場の協力も得て、昨年10月、無事15m×8mという壮大な壁画が完成しました。今回の企画を通じて山元さんは「これから先の100年も、子どもたちが宇美町に誇りを持ち、ずっと住み続けたいと思える町にしていかなければ」と強く実感したそうです。
また今年はもう一つ、青年部として嬉しいニュースもありました。各地の商工会青年部メンバーを対象にした「令和3年度 青年経営者の主張大会」において、宇美町の代表が見事、福岡県大会と九州大会ともに最優秀賞を受賞したのです。そして引き続き、今年12月に開催される全国大会に九州代表として出場することが決定。「ここまできたからには、ぜひとも全国1位を取って欲しい!」と、山元さんたち青年部の応援にもおのずと力が入ります。
宇美町の新たな特産品を作って内外から町を盛り上げたい!
主張大会で栄冠を勝ち取ったその若き経営者とは、KOYASU FARM代表の小林孝昭さん。山元さんより3年後に青年部に加入し、2017年には宇美町の新たな特産品を視野に入れた新規事業を立ち上げました。それは、ヤギのミルクを使った「やぎみるくアイス『産み愛す』」の製造・販売。その道のりは平坦なものではなく、20代の頃の「何か町おこしにつながることをやりたい」という漠然とした思いからスタートし、いくつも壁を乗り越えた今もまだ試練の途中だと言います。
「代々宇美に暮らしていますが、祖父は炭鉱経営、父はガソリンスタンド経営と、時代に合わせて業態が変わっているんです。そして私の代ではまったく畑違いのヤギ飼育。県内でも前例のない展開ということで、どこに何を相談したら良いのかわからず最初はなかなか前に進みませんでした」と話す小林さん。そしてやっと軌道に乗り始めた途端、コロナ禍で販売場所となるイベントが続々と中止に。先が見通せず悶々としていた今年の春、山元さんに背中を押され、青年経営者の主張大会への挑戦を決意しました。
そもそも、まったくの畑違いの仕事をしていた小林さんがなぜヤギのミルクに着目したのでしょう?発端は、宇美町で生まれ育った小林さんの地元愛でした。人口が減り、地域性や文化の継承もされにくくなっていく故郷の未来を思うと、宇美町のことをもっと多くの人に知ってもらい、内外から活気づけたいと望むようになったそうです。そのため宇美の魅力を外に発信すべく、幅広い世代に受け入れられる”宇美ならではの何か”を常に探していました。そんなある日、ヤギのミルクの成分が人間の母乳に近く、昔は母乳がわりに赤ちゃんにも飲ませていたということを知ります。さらにそのミルクを使ったアイスが味も良く栄養的にも優れているのに、まだあまり出回っていないと聞いて「これだ!」と目をつけたのです。
最初は自宅敷地内で2頭のヤギを飼うところからスタートし、現在は36頭を宇美町の山間で飼育。2018年度には福岡県が主催する「福岡よかとこビジネスプランコンテスト」で大賞を受賞し、資金の借り入れや行政への相談などもしやすくなったと小林さん。「このビジネスプランコンテストがターニングポイント。やっと0が1になり、事業が前に進み出しました」。そして今年はFFGのiBankマーケティングが運営するクラウドファンディングサイト「エンニチFUNDING」にもプロジェクトを登録。(プロジェクトは2021年10月7日まで)存在を広く知ってもらう意味で、「産み愛す」の4個セットから、ヤギの命名権まで、KOYASU FARMならではのユニークな商品を出品しています。コロナの収束までもう少し時間がかかりそうですが、小林さんの頭の中にはすでにいくつものプランが出番を待っているようです。
今回ご紹介したKOYASU FARMのように、福岡銀行地域共創部では、新たな地域産品の販路拡大やデジタル支援、PRにとどまらず、プロジェクトを通じて地域に来てもらうきっかけ作りをすることで、交流人口の増加による地域活性化にも取り組んでいます。今後も各自治体や地域の事業者とタッグを組んで、地方創生を推進してまいります。