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STORY

仮設住宅も注文住宅も、人が住むなら同じ快適さを。
先進的な工務店が、災害公営住宅を建てたらこうなった

Text: Wataru Sato / Photo: Shintaro Yamanaka

西原村の災害公営住宅において、一躍その存在感を知らしめたのが、地元・熊本の工務店、株式会社エバーフィールドです。緊急時でも平常時でも、人の住む場所は快適であるべきとの考えを貫き、質の高い木造住宅を作り上げ、「災害公営住宅とは思えない」と評判を呼びました。全国の工務店ネットワークを生かし、地元の職人と地元の材料で作る災害公営住宅の最新事例をご紹介します。

地元・熊本のためにできることとは

前項にもあるように、今回の災害公営住宅は、西原村が買取型を採択したことで、これまでと大きく異なるものになりました。買取型にすることによって、複雑な行政手続を経ることなく、事業者が主体となって災害公営住宅を建てることができる。通常時の住宅建設と同じフローで進められるわけですから、関わる人すべてに混乱の少ないかたちで進めていけます。

災害時に備えて、各自治体は通常、ハウスメーカーと災害協定を結んでおきます。そして災害発生時には、全国の資材や人的リソースを集めて応急仮設住宅を迅速に組み上げます。今まで応急仮設住宅の建設は全国規模で展開しているハウスメーカーがほとんどで、地元の工務店が入る余地はありませんでした。

今回のストーリーの主役、エバーフィールドもまたそうでした。エバーフィールドの久原英司社長は、地域の力になるべく、震災発生から5日後には応急仮設住宅の建設のために県庁を訪問します。自身が副本部長を務める、一般社団法人全国木造建設事業協会(全木協)として、復興への協力を申し出たのです。しかし、「すでに災害協定を結んでいる団体が2つあるため、新しい団体との協定は必要ない」との答えでした。

「私たちは創業以来、住む人の健康を第一に考えた長期優良住宅を設計し、その都度、新たな知見を蓄えてきました。災害時こそ、これまでに培った考え方と技術で貢献できるはず。そう思ったのですが、熊本県との災害協定を結んでいない私たちは、なすすべなく。一度は引き下がるしかありませんでした」

図面を見ながら当時を思い返す久原社長。背景の壁には「夢」と「希望」の力強い書が見える

評判を呼び、仮設建設を一手に引き受けることに

ところが、次第に熊本県庁の対応が変わっていきます。ひとつは、自宅が半壊認定をうけた住民も仮設に入れるように制度が変更になり、想定を上回る仮設住宅が必要になったこと。そしてもうひとつは、木造の仮設住宅を望む声が高まっていたことです。県は、熊本県上益城郡山都町の仮設団地の6戸を全木協に任せることにします。ここで、エバーフィールドは本領を発揮します。

「仮設住宅でも注文住宅でも、人が住むことに変わりありません。予算内であれば、いつも作っている高性能な家づくりを、この応急仮設団地でも行いたい。全木協の協力のもと、地元の工務店が気持ちをひとつにして臨みました」

基礎をコンクリートにして打ち込み、遮熱や断熱工事を丁寧に行い、熊本県産の杉材で外壁を覆う。断熱にも省エネにも優れた応急仮設住宅が誕生しました。

この6戸の出来を見た熊本県は、方針を大きく転換。応急仮設住宅563戸、集会所や談話室の59棟を、全木協熊本県協会(エバーフィールドと他19社からなる、熊本地震応急仮設住宅建設協力工務店)に依頼します。地元の震災復興を、地元の企業と地元の職人が一緒になって実現した例となりました。

震災前から見慣れた山に包まれて、新しい災害公営住宅で暮らす。環境は変わっても、心の拠り所は変わらない

この住宅を、地元の誇りにしたい

前項で説明したように、応急仮設住宅建設の後は、災害公営住宅の建設へと移っていきます。災害公営住宅の場合も、今までのやり方であれば大手やURの独断場で、地元の工務店が受注することはほぼ不可能。しかし、仮設住宅563戸の実績と、熊本県知事から「もういちど地元の工務店に活躍の場を与えたい」との意向がある中で、西原村が買取型を採択。エバーフィールドと県内若手設計者グループkulosの合同で事業を受け、約10億円をかけて災害公営住宅を整備しました。

ここでは、住宅性能はさらにグレードアップ。2LDKと3LDKの2種類を用意し、和室の畳も熊本県産。建築基準法の1.5倍となる耐震等級3で、震度7でも倒壊しません。高齢者が多く入居するため、ユニバーサルデザインを徹底。断熱性能が良く調湿効果もあるので、冷え込む冬も快適に生活ができます。縁側で日向ぼっこする光景も多く見られ、人の気配を感じながら、プライバシーが守れるほどよい距離感も保たれています。個人宅を多く手がけてきたエバーフィールドの知見と技術が十分に生かされ、見学者は思わずこんな声を漏らします。「私もここに住みたい……」。かつて、災害公営住宅でそんな感想が漏れる建物があったでしょうか。

放射熱を下げる素材を使った道路から玄関まではバリアフリー。残された植栽部分には縁側があり、ここで日向ぼっこをしていれば住民の誰かが声をかけてくる

「私たちが徹底したのは、いつもやっていることを、当たり前にやること。それだけなんです。これまでの災害公営住宅は、指定された図面を、指定された建材で建てていくしかなかった。同じ予算で高性能にできるとしても、前例がなければそれさえ許されない。そんなナンセンスがまかり通っていたんです。買取型にして、私たちが事業主体としてすべてのリスクを負うことで、私たちのいつもの家づくりを実践できた。それを被災者に喜んでもらえたのが、何よりもうれしかったですね」

また、その他の取り組みとして、「くまもと型復興住宅」という被災者の住宅再建のモデル住宅があります。エバーフィールドは、益城町テクノ仮設団地内にくまもと型復興住宅展示場を自費で建て、KKN(熊本工務店ネットワーク)加盟工務店の協力のもとに運営を行い、300軒を超える被災者の方の自立再建に貢献しています。木造応急仮設住宅から災害公営住宅まで、地元の材料を使い地元の販売店で買い、地元の工務店と職人で建てる。この様な取り組みが普及すれば、熊本の経済にも貢献し、地域活性に繋がります。

「熊本からこれだけのものが作れることは、地元の自信にもなりますし、業界を志す若者にとっての夢にもなりえます。地元から業界の常識を変え、地元の人のよりよい暮らしを支える。私たちは、これからも変わらずそれを続けていきたいと思います」

さて、このプロジェクトのキーとなっている買取型災害公営住宅。そこで事業者の金銭的負担をサポートしたのが、熊本銀行でした。地元熊本の復興のため、いま動かなくていつ動くのか。この前例のない取組みに対して融資を行った熊本銀行のストーリーを、次回ご紹介します。

EIJI KUBARA

久原 英司さん

株式会社エバーフィールド代表取締役、一般社団法人KKN(熊本工務店ネットワーク)会長、一般社団法人JBN・全国工務店協会理事、一般社団法人全国木造建設事業協会建設統括副本部長。熊本生まれ。地元の工務店に就職し、その後は船のディーラーやダイビングショップ経営などを幅広く手がける。当時付き合いのあったお客様から「建築業界に戻ってきてほしい」と要望を受け、2002年に株式会社エバーフィールド設立。以来、個人宅を中心に、住む人の健康を考えた長期優良住宅を手がけている。